『郊外へ』

堀江敏幸のエッセー、「郊外へ」読了。エッセーといっても単なる紀行文ではなく、パリの郊外、「城壁の外」の感触をテーマにしたフィクション。ここで取り上げられる写真家や作家になじみはなくとも、読み進むうちに「壁の外」の空気が確かに感じられてゆく、うまいなあ。何度も読み返したい一冊。
 観光旅行で一度きり訪れたものの、パリの街や郊外を散歩することなど、これからもあるかどうか・・・・・、それでも散歩につきものの、思わぬところで思わぬものに遭遇する楽しみ、驚きはちゃんとここにも用意されていました。ヴァージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」、アラン・ドロンカフカの未完の物語など。なかでも一番の驚きは、郊外の操車場の風景からたぐり寄せられる「首のない木馬」と題された一章。これは、1950年代に書かれた郊外に暮らす少年少女が巻き込まれる冒険活劇のタイトルでもあって、あっこれは、もしかして「首なし馬」かなと、本棚を探したところ見つかったのがこの本、昭和36年発行の少年少女世界文学全集29フランス編。ベルナの「首なし馬」のほか、ヴィルドラックの「ばらいろ島」、メーテルリンクの「青い鳥」が収められています。この一冊は子どもの頃、大好きだったもので、数ある引越しのたびの本の処分をくぐり抜け、今も本棚に収まっている次第(歳がバレますね)。「首なし馬」は、その後、花輪莞爾訳で偕成社から出版されたようです。

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)