『悩む力』 べてるの家の人びと

 「べてるの家」は北海道・浦河にある精神障害者の共同住居です。病気や生きづらさをかかえた人たちが、もともと教会だった建物に集い、生活しはじめて二十年余り。医療や福祉、行政の枠のなかにいる限り、いつまでも治すべき存在、社会復帰の対象でしかない彼らがそこから出、自らが過疎の町で会社を起こし商売を始めたとき、町の人も、彼らを仲間として受け入れ、手を差し伸べてきます。
  問題だらけの人びとが問題がおこるたびに話し合いを重ね、悩みぶつかりあいながら、自分の言葉を取り戻し、居場所をみつけてゆく。そんな姿にやすらぎを覚えます。右肩あがりに段々よくなってゆくのが当たり前の社会の仕組みの中ではがんばれない、そんな昇る生き方ではなくて「降りてゆく」生き方でもいいんだと気づいてゆく。弱さを抱え、どうして自分は生きているのだろうかと常に問い続け、自分の言葉を取り戻してゆく、つながる、群れる、共に苦しむ人を思いやり、憐れむ。そんな彼らの格闘する姿を読んでいくうちに、熱いものがこみあげてきます。

病気をもちながら生きる人生になんの意味があるのかと問われ、向谷地さんはフランクルのことば(「それでも人生にイエスと言う」より)をひいていう、「この人生を生きていて何の意味があるのか」と考えてはいけない、「この人生から自分は何を問われているか」を考えなければならないと。

ソーシャルワーカーとして大学卒業直後からずっと関わってきた向谷地さん、この方なくしてはべてるはなかったかもしれません。そして「治さない医者」を宣言した川村先生、そしてべてるを色々な形で支えてきた方々と。

・斉藤道雄著 「悩む力 みすず書房 
・「弱く、遠く、小さき群れより」という題で向谷地さんのエッセイ連載中です。(いのちのことば社の月刊小冊子「いのちのことば」。
べてるの家のHP→http://www18.ocn.ne.jp/~bethel/

悩む力

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