起ちなはれ!

「起ちなはれ!」 砂田明(1970年6月)

もし ヒトが今でも 万物の霊長やというのやったら
こんなむごたらしい毒だらけの世の中
ひっくり返さな あきまへん

なにが文明や。

蝶やトンボやホウタルや シジミやタニシやガンやツバメや 
ドジョウやメダカやゲンゴローやイモリや
数も知れん生き物ころしておいて

首はすわらん 目は見えん 耳は聞こえん
口きけん 味は分からん 手でもてん 足で歩けん
そんな そんな嬰児(ややこ)を産ませておいて

大腸菌かて住めん海にしてしもて
なにが高度成長や。なにが百年に一度の万博や。

貧乏がなんどす。え?
思いだしなはれ。
知らん人には教えてあげなはれ
お芋の葉あ食べてきたかて 生きて来たやおへんか。

そのかわりに青い空にはまぶいお陽いさん。せみしぐれの樹陰は風の涼しゅうて
あの緑の草いきれと綺麗な川と池と海と
そうや昭和20年敗戦の夏 芦屋の浜で、
ちっちゃい鯛やらフグやら手でとれた
そんな中で、なあ、人間はぎょうさんの生類といっしょに
生きておったんやて
教えてあげなはれ。思い出さんかい。

もし、あんたがヒトやったら
起ちなはれ。戦いなはれ。
公害戦争や。水俣戦争やでえ。
戦争のきらいなわしらのやる戦争や。
人間、最後の戦争や。
正念場や。勝たなあかん。勝ち抜かな。

負けたら・・・・・・? 負けたらやてえ
負けたら一巻のおわりや。生殺毒の地獄や。
数もしれんほどぎょうさん、お仲間の生類ころした霊長はんはな、
そのかわりに
ビニールやらギッチョギッチョした油やら、エントツやらクルマやら
テレビやら
数も知れんほどぎょうさんのガラクタのこして
この地球から
消えてしまうだけのハナシや。